の授業


            
           朝 の リ レ ー
 
 
                  
 
                         谷 川 俊 太 郎
 

       カムチャッカの若者が
       きりんの夢を見ているとき
       メキシコの娘は
       朝もやの中でバスを待っている
       ニューヨークの少女が
       ほほえみながら寝返りをうつとき
       ローマの少年は
       柱頭を染める朝日にウィングする
       この地球では
       どこかで朝がはじまっている

       ぼくらは朝をリレーするのだ
       経度から経度へと
       そうしていわば交替で地球を守る
       眠る前のひととき耳をすますと
       どこか遠くで
       目覚まし時計のベルが鳴っている
       それはあなたがおくった朝を
       誰かがしっかり受けとめた証拠なのだ



       いつもどこかで日がしずみ、いつもどこかで朝が始まっています。
       地球上で生きる生物のすべては、宇宙船「地球号」の乗組員な
       のです。詩人は、全世界の若者達の結びつきを「朝をリレーする」
       という美しい比喩で表しています。この詩は、目の前の現実を超
       えた若者達へのメッセージです。人は遠くの出来事に優しく、近く
       の出来事に厳しいと言われます。実際の生活の中で、様々な想い
       を送り送られる環境をつくらなければなりません。すぐ近くに送れ
       ないことが、地球の反対側まで届くはずがありません。問題にぶ
       つかって、どうしようかとまよう時、一歩下がって、全体が見える
       位置に立つと、進むべき道が見つかることがよくあります。大きな
       視野に立って、物事を眺めることも大事なことですね。
  


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