の授業

  
           虻
 
                         嶋 岡  晨
 

     
       落石におびえつつハーケンを打ち
       雷鳴におののく手でザイルをたぐり
       汗にまみれてよじ登った
       山

       いつもはおとなしいが
       暴れだしたら手のつけられない
       大きな牛
       ぼくらはその肩にとまった
       虻みたいなものだ

       けれども今ぼくらの中を
       まじりっけなしの風が吹きぬけ
       このよろこびのひととき
       虻の心は山よりも大きくなる

       岩燕の歌
       若さのこだま
         いかにも地球に腰かけて
         いっぷくしているぼくらのいのちだ



       自然の中に立ち、風の音や水の音に耳をすます。無限に変わる音色
       は、とても人間には作り出せない。夕焼けの山際には、不思議な世界
       がしゅつげんする。刻々と変わる色と形は、やがて曖昧さを増し、漆黒
       の闇に閉ざされる。巨大な自然に飲み込まれ、人間のちっぽけさを恐
       怖とともに感じる時である。詩人は、山をよじ登る人間を大きな牛の肩
       にとまった虻みたいなものだという。大きな牛をおこさないように、あば
       れださないように細心の注意を払い、全力でザイルをたぐる。力を出し
       切った時、混じりっけなしの風を感じとることができる。大きな困難に立
       ち向かい、挑戦している時、虻の心は山よりも大きくなる。時々、全力
       で立ち向かう場面に身を置きたい。そんな時、この詩を味わえるので
       はないかと思う。そして、頭の中を空っぽにして、一休みできる場所を
       さがし、地球に腰かけたいものです。


   


    



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