凶 刃
「……ふん、雑魚が。」
男は朱に染まった刀を振り下ろした。
その男以外の最後の一人が防御した刀ごと断ち斬られ、その場に倒れ伏す。
その場所では、その刻に十人以上の男達が斬り殺されていた。
「……つまらん。」
男は血塗りの刀を一振りし、血糊を落とした。
死体を見下ろしていた男は崖の上を見上げた。
「……誰だ。」
問われた者が、崖の上──と言っても八尺ほどだが──から飛び降りた。
やけに小さな影。男から見てもそれは彼の肩ほどの大きさも無かった。
その影は、悲しみに満ちた、それでいて何処か醒めたような瞳を男に向けた。
「あなたの心が、救いを求めているように見えます。」
「……気に入らんな。」
男は、目の前に居る少女に刀を向けた。
「殺す。」
男が斬り掛かる。少女はそれを避けて、纏っていた外套を崖の上に放り上げた。
二人は再び対峙した。暫くの静寂の後、男が動いた。刀を袈裟懸けに振り下ろす。
「アンヌムツベッ!」
少女はそれを躱すと地を蹴り、崖を蹴って男に突進した。
それを男が返す刀で受け、そのまま弾き返す。少女は衝撃をもろに受け、刀を落とした。
「光翼刃っ!」
男の刀が光を放つ。少女は身を捩って辛うじて躱した。
「……ほう、躱したか。だが、そうなっては終わりだな。」
言われて、少女は自分の身体を見た。服が斬られ、胸がはだけている。
「きゃあっ!」
少女は胸を隠してその場に立ち尽くす。
「貴様、名は何と言う。」
「……ナコルル、です。あなたは?」
「牙神幻十郎。」
「……何故、止めを刺さないのです?」
「今の貴様を斬っても面白くない。他人にどうこう言う前に貴様の剣こそ迷いだらけだ。
その迷いを全て断ち斬ってこい。そうすれば……斬ってやる。」
そう言って男は背を向けた。少女は、男が見えなくなるまでずっと背を見ていた。