文学の授業


        大 漁 
                 金子 みすゞ 作 

    朝焼け小焼けだ
  大漁だ
  大羽鰮の
  大漁だ

  浜は祭りの
  ようだけど
  海の中では
  何万の
  鰮の(      )
  するだろう



  第6学年国語科学習指導案 
                         授業者 奥 村 康 造

                         平成16年12月  日                           

(1)題材  『大漁』  金 子 み す ゞ 作

(2)作品分析

 @作者について

   金子みすゞは、明治36年(1903年)に山口県大津郡仙崎村(現長門市)で生まれる。本名テル、
 父庄之助、母ミチの長女として生まれ、2歳年上の兄賢助がいた。2年後、弟正裕が生まれる。
父は
 上山文英堂書店清国営口支店の支店長として清国へ渡っていたが、明治39年清国営口にて死去、金
 子家は仙崎で金子文英堂書店を営む。明治40年、弟正裕は上山松蔵夫妻と養子縁組し、下関へ行く。

   郡立大津高等女学校入学時から詩作を始めている。校友詩『ミサヲ』にたびたび投稿している。大正
 8年、母ミチ上山文英堂店主松蔵と再婚する。金子家は、祖母ウメ、兄賢介、テルの3人となる。

 正12年、テル20歳、下関の母のところに移り住む。この頃から、みすゞのペンネームで雑誌に童
 謡の投稿を始める。童話、婦人倶楽部、婦人画報、金の星などに、いっせいに掲載された。特に西条
 八十に高く評価され「若い童謡詩人の巨星」といわれ、投稿詩人達の憧れの星となる。
大正15年、
 テルは上山文英堂で働く宮本啓喜と結婚する。この結婚は、テルにとって、幸せをもたら
 さなかった。夫の遊郭通いに苦しめられ、病気をうつされる。また、夫から詩作と手紙を書くことを
 禁じられ、昭和3年11月以降は、発表作は無い。
昭和5年2月、宮本と正式に離婚する。3月10
 日、上山文英堂店内で服毒自殺する。享年満26歳であった。

   

A作品について

  昭和5年、26歳で世を去った後、およそ半世紀の間、金子みすゞは、幻の童謡詩人と語り継がれる
ばかりとなった。その後、実弟上山正裕の下に保管されていた3冊の遺稿集が発見され、広く世に知ら
れるようになった。『金子みすゞ全集』全3巻(1984年、JULA出版局)として刊行され、日本
児童文学学会特別賞を受賞した。その後、数多くの冊子が出版されている。
金子みすゞの作品の特徴の
第1は、相対するものを両面から描いていることである。『大漁』では、『浜は祭り・・・・・』、
『海の中では・・・・・・』と喜びと悲しみを1つの出来事として描いている。一方の喜びともう一方
の悲しみは、1つのものなんだよと言っているのである。
第2の特徴は、常に自分と対峙するものの側から見ているということである。一方的な見方や考え方を
押し付けるのではなく、両方から見えるものを描いているのである。『つもった雪』という作品では、
『上の雪、さむかろな。』、『下の雪、重かろな。』、『中の雪、さみしかろな。』と全体の思いを描
き出している。すべてのものの立場から見るということが、金子みすゞの限りなく優しい世界(矢崎氏
は宇宙という)を作り出している。
第3の特徴は、日常の生活から出発していることである。難しい言葉ではなく、いつも使われる言葉で
描いている。日常を描きながら、こうありたい、こうあればいいなあという願いが、読み手に伝わって
くる。現実と希望という相反する2つの世界が、描かれている。

  毎日の生活がすべての人間にとって最も大切なことであり、日常の出来事がその人間を作ってい
くのだと教えられる。

(3)教材分析

 @児童の実態について

  作品を教材化するには、授業を前提とした分析が、必要である。授業を受ける子ども達の実態と目標が
統一して設定されなければならない。
従って、本物の授業は担任しかできない。今回は、授業の形態や
発問などの検証、教材の分析などの参考として、1時間の授業をする。

  今回は、パスですが、6年生にかかわる出来事を紹介します。

  自習の監督に行きました。『海の命』を読んでいました。以前からわからなかったことが、また疑問と
なり何回も読みました。でもわかりません。わからない時は、誰かに聞かなければなりません。前の子
どもに聞きました。『なんで、太一はクエ殺さなかったのか。もしかすると、戦ったら負けてしまう、
すなわち殺されてしまうから、臆病になって、逃げたのではないか。』と、聞く。子どもは、真剣に考
え込んで、文章の前後を読み、考えた。数名集まってきて、考えた。答えはでなかった。

 A国語の学習経過について

  この授業まで、何を教材にどのような学習が行われてきたのか。

  今回パスです。

 B教材解釈

〔題名について〕

金子みすゞの世界(宇宙)を代表する作品である。漁師にとって、漁師の家族にとって、また、村にとって、
最もうれしい言葉である。しかし、作者にとっては、喜びが大きければ大きいほど、見えない世界への気
持ちも強く大きくなる。『大漁』は、作者の気持ちのコントラストを強烈に浮き立たせている。

  〔第1連〕

  大羽鰮という種類は無く、マイワシの大型(20cm以上)を言うようである。大羽鰮、中羽鰮、小羽鰮
など、大きさによって呼び方がちがう。この作品では、『大羽鰮の大漁だ。』と続く。大きくて値打ちのあ
る鰮の大漁なのである。村の生活とかかわって、大漁をどれだけ作品の世界に近づいて読めるかが、第2連
の読みを変える。この作品を読む子ども達は、漁師の子どもでもなく、大漁を実際に経験した子どもでもな
い。だからこそ、これまでの授業が問われるのである。学校での学習で実際の体験ができることは、少ない。
また、学校は実際の体験をする場所でもない。学校の授業は、子ども達と教師が、教材を媒体として、思考力、
判断力、選択能力など、心理真実に迫るための知識や技術や考え方を学ぶことなのである。学年が進むにつれ
て、読む内容、考える内容も高度になる。まず、読んだり考えたりすることをいやがらない子どもにしてやり
たいものである。

  〔第2連〕

  子ども達に対比を学ばせたい。対比は違いと共通を際立たせることであり、よりお互いを明確にする。
場所、出来事、空間、人物の対比から、作者の気持ちの持ち方、世界観の対比まで、金子みすゞの世界
を描き出している。見える世界と見えない世界を比べて考えさせたい。

  〔七五調のリズム〕

   七音と五音で構成されている。リズムがよく歌うように表現できる。童謡のような雰囲気を持っている。

(4)目標

  @対比することでより対象を明確に意識する考え方を学ぶ。

  A自分の日常の出来事を対比の考えを用いて考える。

(5)指導計画

   第1次 詩を読む(2)   

       大漁を読む              (1)   本時

       金子みすゞの他の作品を読む      (1)   自主学習

   第2次 日常の出来事を考える         (1)   

(6)本時の指導

 @目標   ・□の言葉を考えることで、作品をしっかり読み味わう。

       ・詩の中での対比された言葉を見つける。

       ・見えないものを見ようとする事の大事さを知る。

 A本時の展開案

教師の活動

時間

子どもの活動

@『鰮、なんと読みますか。』

A『わからない言葉はありますか。』

*大羽鰮の説明をする。

B『第1連の様子を話し合いましょう。』

C『四角の中に言葉をいれましょう。』

*四角の中の言葉を対比で考える。

D『言葉を入れたわけを話してもらいましょう。』

E『対比されている言葉を見つけましょう。』

*対比しているが隠している言葉を考えさせる。

F『鰮と対比している言葉を考えましょう。』

G次時の予告

0   

10

20

30

40

45

*配られた詩のプリントを読む。

*鰮の読み方を考える。

 文章から予想する。

*鰮が読めたら、詩の中身に少し入り込めたことになる。自力で読む努力をする。

*大漁でも特別な大漁であることを想像する。

*大漁だという言葉で人々の様子を思い浮かべる。

*四角の言葉を考えることで、詩の言葉をもう一度検討する。

*祭りと四角の中の言葉は対比の関係にあることに気づき考える。

*自分の考えを発表し、友達の考えを聞く。

*自分の考えを修正する。

*見えるものの対比から見えないものの対比を考える。

*鰮と対比している言葉を予想する。

*見える世界と見えない世界について考える。

(7)授業を終わって

 @担任ではなく飛び込みの授業である。授業時間も1時間、前日に『大漁』を家で視写してくることを
お願いした。授業で作品を取り上げることは、自由に読むことで得たものを突き崩し、新しい感情や
思いや知識や技術を手に入れさせることである。そうでなければ授業をする意味がない。

 A新しい発見があったどうかが、授業の質を決める。相手は6年生、なかなかの強者がそろってます。
1時間勝負ですので、初めからこちらも強気で攻めました。できればゆったりとやりたかったのですが。
それでも、反応がよくたくさんの話を聞けました。

 B第1の発問について

  『鰯』は知っていますが、『鰮』は読めませんでした。読めないことを想定しての発問でしたので、
予想通りの展開です。そのうち、『大漁』に目をつけて、『魚の名前やど。』という子どもが出てきて、
そうだ、魚の名前やということになりました。そして、何万のと書いてあるから、あまり大きな魚では
ない。アジかサバかイワシか、そこで、『鰯』を板書しました。

 C浜は祭りのようだけど、と書いてある。みんな大喜びだ。大場鰮がこんなにたくさんとれるのは珍しい
のだろう。『大漁』が繰り返されている。行頭に大が3つも並んだ。本当に大喜びしているようだ。

 D主発問を繰り出す。『□に言葉をいれよう。』、短時間しかない私には、集会でも授業でも、四角に入
れる言葉を考えさせることが多い。クイズのようになるが、根拠のある予想を引き出すことを目的にし
ている。今回は第2連に四角をつくった。

 E対比で考えることでイメージが作れる。『浜は祭りのようだけど、海の中では何万の鰯の(     )
するだろう』この言葉を考えることで、この詩の世界を感じ取ることができると考えたのである。対比は、
お互いを明確にしあいながらイメージを変革していきます。なるべく早い学年で『対比・類比』を学ばせ
たいと思っています。この作品は、対比を学ぶにはとてもよい作品です。

 F対比その1、『浜』と『海の中』、その2、『祭り』と『○○○○』、その3、『村人達の喜ぶ』と
『鰮達の悲しみ』、そして、対比4、『人間の喜び』と『人間の悲しみ』、様々な感情が読み取れる。
子ども達は、2つ目の対比までは読めましたが、おおきなイメージの対比は、教えました。

 G物事を一方的にみて判断しないという裏表の関係については、まだまだ、話し合うのは困難です。