文学の授業


 


           5年生 わらぐつの中の神様      
杉 みき子 作 黒井 健 絵

(1)作者について

長野県女子専門学校(現・長野県短期大学)を卒業後、電気工事会社に勤務し、新潟日報社の読者応募欄に掲載、
1957「かくまきの歌」で第7回児童文学新人賞(現・日本児童文学者協会新人賞)を受賞した。本職だけでな
く作詞家として母校の小学校の記念像の歌と100周年歌を担当した。全国の小学校・中学校の
教科書に掲載されて
いる。
小川未明文学賞選考委員。(ウィキペディアより)代表作は、「わらぐつの中の神様」、「レモンいろのち
いさないす」、「さよならを言わないで」、「白い花のさく木」、「しろいセーターのおとこの子」など。

(2)作品について

  @全体が、優しさで包まれています。マサエ、おばあちゃん、母、父、そして、おじいちゃん、この家族の
優しさを感じるだけで気持ちが落ち着きます。思わず、顔がほころんでくる作品です。

  A現在の情景を描写しながら、おばあちゃんの昔話を間に入れている。現在、過去、現在という描き方であ
る。人物の今と昔を臨場感豊かに描いている。読み手は、いつの間にか、物語に引き込まれ、最後に『あ
あ、そうだったのか。』と感動します。

  Bおみつさんの一生懸命な姿が、マサエに受け継がれていく。神様は、わらぐつにも、雪げたにも、もしか
すると、スキー靴にもいるかもしれない。おじいちゃんをむかえに出るマサエの姿が、とてもさわやかで
ある。

(3)教材として

 @情景(心を動かす光景 ほほえましい光景)を読む

  文末を工夫することで、読み手を作品に引き寄せる。現在形の文末は臨場感があり、その場にいるかのように
読んでしまう。読み手が、その場にいるような感覚になるのである。前話は、現在形、過去形を上手に使い分
け、読み手を作品に引き入れる。

  雪がしんしんとふっています。

  マサエは、・・・・・・読んでいました。

  今夜は、・・・・・・・帰ってきません。

  おふろ好きの・・・・・・出かけていきました。

  

 A背景(時代や人や事件の背後にあるもの)を読む

  マサエとおみつさんは、同じ年頃であろう。今と昔の若者の生活を対比しながら、一生懸命に生きることの素
晴らしさを描いている。時代は変わっても、人間の気持ちの持ち方は変わらない。他人を思う優しい気持ちは、
今も昔も変わらない。

 B状況(その場のその時のありさま ある人を取り巻く社会的・精神的・自然的なあり方のすべてをいう 様子
        情勢)を読む。

    

 この授業書では、下記の通り言葉を定義する

   背景・・・作品全体に影響する時代の状況 

   情景・・・人物の心が反映する様子の描写

   状況・・・人物が置かれている状態

状況を読む。状況に影響を与える背景を読む。そして、情景描写を読む。登場人物の気持ちは、人物の置かれた
状況を読めないと感じ取れない。私たちは、登場人物の気持ちではなく、人物の置かれた状況を考えなければな
らない。授業で子ども達と学び合うのは、状況であり、情景であり、背景である。状況を読み間違ったら、感じ
ることも違ってくる。『気持ちを問う前に、状況を問え』、読み手の思いは十人十色である。だから、授業で交
流する。同じ文章を読んでも、さまざまな思いを持つのである。交流することで、自分の読みを深く広くしてい
くのである。

   

(4)全体計画

   次から次と順番に読んでいく授業は、必要ないと思います。この教材では、次のように場面を限定して読んで
    はどうでしょうか。

  @前話      ・・・マサエの家族がくらす状況を読む。(2時間)

  A事件のはじまり ・・・おばあちゃんの昔話がはじまる。(1時間)

  B事件の展開   ・・・おみつさんの行動を読む。(3時間)

  Cクライマックス ・・・雪げたにも神様はいるかもしれないというマサエとおばあちゃんの心情を読む。(1時間)

  C後話      ・・・マサエの心情の変化を読む。(1時間)

(3)発問と指示

 @『みんなに笑われながらとあります。笑われたのは、だれですか。また、笑ったのは、だれですか。』

  物語の初めの文章である。とても静かで優しい場面であり、登場する人物をすべて登場させている。この発問に
こたえるため、子ども達は何回となく前話を読み返すと思う。文章を何回も読みたくなるような発問をしたい。

 A『文末に気を付けて読みましょう。』

  『ちがいは、何ですか。』

  現在形と過去形の文末を見つけ、ちがいを考える。現在形の文末は、読み手をその場へ連れて行く。

  

    (A)雪がしんしんとふっています。

    (B)雪がしんしんとふっていました。

   2つの文の違いを話し合う。

 B『おばあちゃんの話が始まるまでのことを箇条書きに書きましょう。』

  短くいいかえることは、大事なことを明らかにする学習です。要点は何か、探ろうとすることです。自由に出来事
を取りだし、短く書かせる。読み間違いがなければ認めていく。

  マサエのぬれたスキーぐつ

  母が新聞紙を入れた

  マサエは新聞紙を入れ替える

  おばあちゃんが『わらぐつはいてきない』と声をかける

  まさえは、『みったぐない』とこたえる。

  おばあちゃんは、『わらぐつの中には神さまがいなさる』という。

  おばあちゃんの話が始まる

 C『おみつさんがはじめて作ったわらぐつの事が書かれている場所を四角で囲みなさい。』

  おばあちゃんの話を全文読んでからの発問である。この場所を特定するため、全文を思い出し、特定するだろう。

  

 D『わらぐつを見た人の反応を書きだしなさい。』

  *『いや、よかったでね。』

  *『へええ、それ、わらぐつかね。おらまた、わらまんじゅうかと思った。』

  *若い大工さんが言ったことを書きだしなさい。

   『あねちゃ、そのわらぐつ、見せてくんない。』

   『このわらぐつ、おまんが作んなったのかね。』

   『ふうん、よし、もらっとこう。いくらだね。』

 E『おみつさんは、何足わらぐつをつくりましたか。』

  この問いを考えることでどれくらい時間が経過したのか、何回顔を合わせたのかを想像するであろう。市の立つ日は、
月何回なのだろう。わらぐつは、だんだん形もよくなっていったのだろう。などなど、いろいろなことを考えて読む
ことが出来る。

 F『おかあさんは、この話を前に聞いたことがある。○か×か?』

  この発問で再度文章を読むであろう。お母さんが前に聞いたことがあるかを示す言葉を探して読むであろう。

  それぞれの理由を文章から探し、提示させる。

  

 G『マサエのスキーぐつにも神様はいますか。』

  最後の問いです。全文を思い出し、必要な部分を読み返して、答えをだすであろう。

  『いる』も良し、『いない』も良し、答えは1つではない。

  できるだけ、くわしく書かせて交流したい。

『文学作品の授業が好きですか。』、この問いに『はい』と答える子どもが、何割いるでしょうか。高学年になればな
るほど、嫌いな子ども達が増えています。それは、なぜか。一番大きな理由は、低学年の時の授業とまったく同じよう
なことをしているからではないか。『ごんは、どう思いましたか。』、『ごんのしたことをどう思いますか。』などな
ど、1年生も6年生も同じ授業形態をしていないか。私は、『徹底的に言葉を丁寧に読み、感想を持つ授業』、『1行
1行順番に検討していく授業』、どちらもあると思っています。しかし、1年から6年まで通用する授業方法とは思い
ません。高学年になったら、『しらみつぶし』の授業を嫌います。わかりきったことまで問われ、答えさせられるので
す。いいかげん、いやになって来ます。もっとダイナミックに授業を展開したい。読む範囲もできるかぎり大きくとっ
て、発問を工夫して、子ども達の思いを引き出したい。『読み方』の指導を念頭に置いて、授業を創りたいと思ってい
ます。