文学の授業


5年生 大造じいさんとがん       椋 鳩十 作  金子 恵 絵

(1)教材として

 @三人称全知の視点で書かれていますが、『大造じいさん』を『わし』と置き換えると、
一人称の文章として読める。『さあ、大きな丸太がぱちぱちと燃え上がり、しょうじに
は自在カギとなべのかげがうつり、すがすがしい木のにおいのするけむりの立ちこめて
いる、山家のろばたを想像しながら、この物語をお読みください。』、『わし』と置き
換えると、さらに臨場感のある読みができる。

 A残雪と大造じいさんの戦いの記録である。数年にわたる戦いから、大造じいさんは、自
分を変革していく。鳥に対する自分の考えを変え、鳥とはいえ人間のような行動をするこ
とを知る。

 B残雪の行動を見て生きているもののあるべき姿を考えさせられる。感動に理由はいらない。
説明もいらない。クライマックスは、読み、感じる授業でありたい。そして、自分の思い
を語り合いたい。

(2)授業について

 @かぶせて読む

  前話から事件の始まり、展開、クライマックス、結論と読み進める。後戻りはしない読み方
を学ぶ。一読総合法でこの物語を読む。

 A授業の範囲

  第一次 前話

  第二次 前話 事件の始まり

  第三次 前話 事件の始まり 事件の展開

  第四次 前話 事件の始まり 事件の始まり クライマックス

  第五次 前話 事件の始まり 事件の始まり クライマックス 結末

  授業時間数については、発問と指示により変わってくる。

(3)授業の課題

 @背景を読む  人物の生活する時代、仕事、環境を読む。

  A情景を読む  場面の状況を人物の感情を入れて読む。

 B行動を読む  順序を明確にして出来事を明らかにする。

 *残雪の行動を追いかけながら、大造じいさんの気持ちの変化を読む。

(4)発問と指示

 @この物語の背景を知る。

『大造じいさんもイノシシがりに参加しましたか。』

前話を読んだあとの質問である。

読み手は、再度、前話を読み返すであろう。

発問は、常に、文章を読もうとする気持ちを湧き立たせるものでありたい。

  『イノシシがりの人々は、大造じいさんの家に集まって何をしたのか。』

  大造じいさんについての認識を深めるための発問である。

  じいさんについての描写を確かめながら、こんな人かなあんな人かなと想像をたくましくする。

  *話の上手な人  *かりの上手な人  *強い人  

  この物語の背景を考えながら、子ども達の話を聞こう。

A残雪とかりゅうどたち

 『残雪とよんでいたのは、だれですか。』

 かりゅうどたちから残雪と呼ばれていた。

 たくさんいるガンと何かがちがう。大きさだろうか、姿かたちだろうか、多くの
かりゅうど達が残雪を知り、残雪をねらっていたのではないか。

 『このガンが、残雪と呼ばれたのは、なぜですか。』

 *ガンの群れを率いている。

 *左右のつばさに1か所ずつ真っ白な交じり毛をもつ。

 *なかなかりこうなやつ、猟銃の届くところまで人間を寄せ付けない。

 *長い間、生き残っている。

 『大造じいさんは、これまでどんな方法でがんをとっていましたか?』

 *気づかれないように、そっと近づく。

 *りょうじゅうでうつ。

 *残雪が来るまでは、この方法でガンをとっていた。

B大造じいさんの第一の作戦

 『特別な方法で使ったものは何ですか?』

 *うなぎつりばり

 *たたみ糸

 *くい

 *たにし

 『特別な方法を絵にかきましょう。』

 

 『うまくいきましたか?』

 *1回目は、うまくいった。生きたガンが1匹とれた。

 *2回目は、失敗であった。仕掛けを見抜かれた。

 *残雪が仲間に教えた。

 『情景が良くあらわれている文章を見つけましょう。』

 情景とは、登場人物の気持ちが表れている状況の描写である。

  秋の日が美しく輝いていました。

 この文章は、とてもよい天気であり、太陽が輝いている状況を表しています。文章には、
今度こそガンがたくさん手に入るぞと意気込むじいさんの気持ちがよく現れています。
じいさんの期待とドキドキが伝わってくる文章です。美しく輝いているのは、お日様と
じいさんの気持ちでしょう。この場面で、『情景』とは何かを教えたい。後で2つの文章
が出てくるが、徐々に、自ら探し自ら感じ取るという授業を行いたい。

C大造じいさんの第二の作戦

 『第2の作戦で使ったものは、何ですか。』

 *大量のたにし

 *わらと木

 *鉄砲

 『うまくいきまいきましたか。』

 *失敗だった。

 *小さな小屋を見つけた残雪は、えさ場を遠くに変えた。

 『情景がよく表れている文章をさがしましょう。』

 

  あかつきの光が、小屋の中にすがすがしく流れこんできました。

 明け方の爽やかな光が、すがすがしく流れこんでくる、なんとも気持ちの良い表現です。
じいさんのさわやかな気持ちが伝わってきます。長い間苦しめられてきた残雪をもう少し
でやっつけられる、早く来いという気持ちが感じられます。

D大造じいさんの第三の作戦(クライマックス)

 『何を使いましたか。』

 *おとりのガン

 *鉄砲

 『登場人物はだれですか。』

  大造じいさん  残雪  ハヤブサ  おとりのガン

 『出来事を順番に書きましょう。』

  残雪が来たと聞いて、沼地へ行く。

  飼いならしたガンをえさ場に放した

  昨年作った小屋にもぐり込んで、ガンの群れを待った。

  残雪が群れを率いてやってきた。

  ガンの群れは、えさ場におりて餌をあさりだした。

  口笛を吹こうとした。

  ガンの群れがいっせいに飛び立った。

  じいさんは、小屋の外へ出た。

  ハヤブサが来た。

  一羽飛び遅れた

  じいさんは、口笛を吹く。

  おとりのガンは、こちらに向きを変えた。

ハヤブサは、おとりのガンをける。

ハヤブサが、攻撃しようとする。

残雪が、空を横切った。

大造じいさんは、残雪をねらった。

じいさんは、再びじゅうをおろした。

ハヤブサと残雪は、もつれあって沼地に落ちた。

じいさんは、かけつけた。

はやぶさは、飛び去った。

残雪は、じいさんを正面からにらみつけた。

大造じいさんは、残雪に手をのばした。

    『情景を表す1行を探しましょう。』

    東の空が真っ赤に燃えて、朝が来ました。

  『燃えているのは、何ですか。』

        東の空の朝日  大造じいさんの気持ち

  
『大造じいさんが銃をおろしたとき、じいさんが見たのは何ですか。』

*ハヤブサと戦う残雪の姿

  *仲間を助けるためには、強い敵にも立ち向かう残雪

  

 『手を伸ばすじいさんと残雪を動作化しましょう。』

  *静かにそっと手を出す。

  *大事なものを持つように手を出す。

 

E春

 『大造じいさんは、第四の作戦を考えましたか。』

 *読者は、どう答えるでしょうか。それぞれの読みを大事にしたい。この後の話は、
どうなるのか。子ども達に想像してもらえたらいいなあと思います。

(5)考察と意見

 @起承転結が明確な物語である。細かな発問ではなく、場面を大きく設定し、主発問だけ
で授業をしたい。

Aクライマックスは、残雪、はやぶさ、じいさんの行動が順序良く描写されている。出来事の
流れを読まなけれならない。事実が複雑に交錯しているので、大造じいさんの視点で読むこ
とが大事だ。

B再び銃をおろした時の大造じいさんの気持ちは、子ども達にはきかない方が良いと考えている。
きかれても、答えようがないのではないか。同じように、残雪の気持ちもきかない。行動の事
実を明確に把握したい。そのことが、人物の気持ちを想像することになる。

C『情景』とは、人物の気持ちが想像できるような状況、風景である。典型的な3つの文章で、
具体的に教えたい。

D物語の展開が、1の場面、2の場面、3の場面と同じような描写なのだが、だんだんとクライ
マックスへ発展的に続いていく物語である。物語の展開の面白さを学びたい。

 作品として自由に読み、感想を持つには、とても良い作品である。教材として授業をするとき、
何を目標にするのか。この教材で、何を教えるのかと考えると、困ってしまった。今回は、一
読総合的な読みを提案しているが、読む方向性も迷った。はっきりわかったことは、『大造じい
さんの気持ちは?』、『残雪はどう思ったか?』という気持ちを問う授業は、成立しにくいとい
うことだ。もし、気持ちを考えるのであれば、『大造じいさんの気持ちの変化を時系列で表にし
よう。』という発問が良いかもしれない。とにかく、授業になるかならないか自信がありません。
使える発問があれば、使っていただければ幸いです。