文学の授業


  きつつきの商売  林原玉枝 作  村上康成 絵

(1)授業の方向

   初めの文章が、難解です。『きつつきが、』と主格を表す格助詞を使い、『きつつきに』と
    目的格を表す格助詞を使っています。さらに、『きつつきは、』と係りの助詞『は』を使い
    ます。3年生のはじめでは、助詞の使い方を取り上げるのも難しいのですが、くっつきの
    『が に は』が使われていますねくらいは、話しておきたいですね。

   また、3行目が難解です。看板を作るための木を森じゅうからえりすぐったのか、メニュー
    に書くための木をえりすぐってきたのか、どちらでしょうか。かんたんにやさしく書いてあ
    るのですが、日本語の文法上、とても読みにくい文です。

   学年の最初の教材は、これからの授業の進め方に大きな影響を与えます。1年間の教材を調
    べて、1つ1つの教材でどんな授業を目指すのかを考えます。それぞれの教材は、独立して
    はいますが、読み方を指導することを考えると、連続して発展させていかなければなりませ
    ん。
学年のはじめと中と終わりでは、読み方に違いができてくるのです。4月よりも12月
 のほうが、深く、厳しく読めるように指導したいものです。

助詞の使い方や文章の難解さは問題にせず、話の展開の面白さを読みたいと思います。

(2)言葉の指導

  3年生では聞きなれない言葉が、多く使われています。人物の置かれた状況を明らかにするため
 にも、丁寧に教えたいものです。問題になった言葉だけをみんなで話し合いましょう。けっして、
 言葉全部を辞書で調べ問題にしないことです。時間も多くかかり、疲れてしまいす。

  @森じゅう Aえりすぐり Bこしらえました Cきざんだ Dこうです

 Eじっくり Fはじっこ  Gこっくり Hうなずきました Iこだま

  Jうっとり

  文章の中で言葉は生きています。一つ一つ取り出して辞書で調べることと同時に、文のつながり
で意味を深めたり広めたりします。一つずつ調べ上げるのではなく、大事な言葉を2つ3つ授業
で取り上げたいと思います。

  物語の展開と深く関わる言葉を選ばなければなりません。『しらみつぶし』は、避けましょう。
1つは、『きざんだ』と『書く』の違いを問題にしたいです。もう1つは、『こだま』です。ぶ
なの木の音が、森のすみずみまで届けられたような雰囲気を作り出しています。今の子どもは、
『こだま』を聞いたことがあるのでしょうか。こだまを聞くための状況は、遠くまで静かでなけ
ればなりません。

   

(3)考えられる発問

    『クライマックス読み』が、可能か。むりやり4つの場面わけをします。とっても無理ならやめま
しょう。物語を読むときの基本、起承転結に近い分け方です。場面わけを考えることは、物語の
展開を意識して読むことです。物語の全体と部分を意識することでもあります。場面わけをj順番
に4つに分けて読むかと言えば、そうではありません。読むときは、場面をつないで読むことも
あります。

  @事件のはじまり  きつつきが、   〜   こしらえました。

  A事件の展開    かんばんにきざんだ  〜  時間がすぎてゆきました。

発問1  かんばんを作ります。ノートへ書きましょう。

   発問2  教室でこだまを作ります。できますか。

        どこで、どのようにすれば、こだまを聞けますか。     

    Bクライマックス  「さあさあ、・・・」 〜 「うふふ。」

  C結末      野ねずみたちは、   〜つつまれていたのでした。

   発問3  とくべつメニューは、メニューに書きましたか。

   発問4  次の2つの文のちがいを考えましょう。

        (A)ぶなの森に、雨がふりはじめました。過去形は事実を表す。

        (B)ぶなの森に、雨がふりはじめます。 現在形は、内容を一般化することがある。

        *雨の多い季節になって、しばらく雨が続きました。そんな時、雨の音の面白さに気が
   つきました。この文は、次への展開を作り出す重要な文章です。大事に読んで、ここ
   からクライマックスへの展開を考えたいです。

  D全体を通して読む

   発問5  きつつきは、雨の音をメニューに書きましたか。

   発問6  おとやは、はんじょうしていますか?

(4)予想される授業展開

  @発問1からの展開

   子ども達にかんばんを作らせます。

   1人1人に用紙を配ります。注意事項を言います。

   文章をよく読んで看板を作ること、文章から読み取れないことは描かない。

   大きさや色も考えましょう。

   『きざんだ』と『書いた』のちがいを表現させましょう。

3行目から4行目の文の解釈を聞いてみましょう。『えりすぐった』のは、かんばんんを作るための
木か、メニューに各ための木か、どうしても決着をつけなければならない問題ではありません。文章
を読むとき、イメージを作りながら読みます。きつつきにとって、大事なものは何か?この文書は、
そのことを書いています。かんばんなのか、音を出す木なのか、後の展開に関係のあることです。看
板を作るためにえりすぐったのなら、看板が大事です。いろいろな木をえりすぐって来たのなら、音
を出す木が、大事です。さて、どう読みますか?

  A発問2からの展開

   この作品を支えているのは、『静かさ』と『優しさ』です。騒々しいギスギスした世界ではなく、ゆ
ったりとした優しい世界を描いています。もし、教室で『こだま』を聞くことができるなら、なんて素
敵な教室なのでしょうか。静かで、互いを大事にする優しい教室なのでしょう。『こだま』を問題にす
るのは、みんながお互いに優しい思いやる心を共有するためです。教室では、『こだま』は作れないで
しょう。だったら、どんなところで作れるのか、私たちがどうしたら作れるのかを話し合いましょう。

  B発問3からの展開

   特別メニューを書くかどうか迷っています。結論は出ていませんが、読み手が、書く、書かないを判断
し、自分の考えを持つことは、作品と対峙するために大事なことです。この発問は、子ども達を作品の
中へ引き込むためのものです。いろいろな意見を出し合い、話し合いましょう。結論は、出さない方が
いいでしょう。書いてないことについて考えることは、自分勝手読みになってしまうのではないかとい
う指摘もあります。この場合、文章を検討することで、書いてないことを想像することになります。子
ども達の読みを拡げる発問ではないかと思います。

  C発問4からの展開

   たまたま降った雨ではありません。梅雨時期になったのです。きつつきは、雨の降る間、商売がうまく
いきません。なにかないかなあと考えていたのです。そして、新しいメニューを思いついたのです。それ
まで、何日かたっているのではないでしょうか。文末が現在形であることで、読み方が変わってきます。
ぜひ、子ども達とちがいを話し合ってほしいです。この授業をすることで、子ども達は、文末を意識して
作品を読むでしょう。

  D発問5からの展開

全体の通し読みの発問です。メニューに書きたいと思っているのかどうかを検討することは、商売に深く
関わります。キツツキは、いろいろなことを考えながら『おとや』を開いています。『晴れの日に雨の音
を注文されたらこまるなあ。』、『雨になったら、こだまをつくりにくいなあ。』、キツツキの商売です
から、売れないと困ります。また、お客の注文したものがないと、困ります。商売人としてのきつつきの
悩みを話し合いたいなあと思います。

  E発問6からの展開

    『おとや』がはんじょうすることは、このぶなの森が平和であるということです。みんなが仲良く、お互い
を思いやって生活できているということです。子ども達が、『はんじょうしている』と思えるような授業
をしたいですね。