分数のかけ山・わり山

                    
                                      1983年作成   2012年再編集

    四則計算の最後の単元です。かけ算とわり算四則計算の最終段階である。分数のかけ山・わり山登山』として、

    授業書を作った。1983年、某小学校6年生で行った自作の授業書である。この学級の子ども達は、算数が好
    きである。5年生から、教科書をはなれ、自作授業書をできるかぎり作ってきた。一人ひとりの考えを引き出し、
    交流させ、新しい知識や技術を獲得させる。5年生の『小数の乗除』と同じような授業書なので、子ども達は自
    信をもって授業に参加していた。授業書作成の思いは、次の通りである。


(1)目的地を明確に意識した授業を行いたい。何のために何をしているのかを明確にする事が、子ども達の頑
張りを引き出す。

(2)ルート図を作成する。全体と部分を明らかにすることが、自分の位置をはっきりさせ、頑張りを引き出す。

(3)予測をし、予想通りになることが、子ども達の頑張りを引き出す。思ってもみないことを見せ、 おおおっ
と声を出させる
のも授業技術の1つではあるが、予想通りに事柄が展開することは、この上ない喜びであり
学習内容の定着でもある。『予想する』ことが学びの原点である。

(4)最近の教室の風景から

   1年前転勤して来て、5年生を担任した。元気の良い、素朴で優しい子ども達である。算数では、自分で作っ
た授業書で探検風に授業をして楽しんでいる。
夏休みの名残りが濃く、教室にまとまりがない。学年が進むに
つれて、平常の学習状態を取り戻すのに時間がかかる。だんだんと『強く、賢く』なってきているはずなのだ
が。後ろの壁には、夏休みの宿題の習字と年表、横の机には『夏休みの?』、この時期になると宿題なんか、
出すんじゃなかったと毎年思う。なぜならば、1か月分の子ども達学習内容をしっかり評価できないからである。
がんばった分を正当に評価しきれないのである。はやく、宿題を点検し、2学期の学習を始めなければならない。

   

   【帯分数 → 仮分数 を忘れたA君 】


登山道具の点検中、帯分数から仮分数への変換を忘れている子どもを発見。知識は、繰り返し使わないと忘れる
物です。『分数は百面相』で、頑張ったはずなのに、やっぱり忘れます。『忘れたら、思い出す』、この繰り返
しが大事です。覚えることは、
『繰り返す』ことです。赤ちゃんが、『おかあさん』という言葉を何度繰り返す
ことでしょう。彼は、塾へ行き、テストでも平均80 点以上をとる子どもです。が、本読みがたどたどしく、意見
の発表も少ない。いつも、気になっている子どもの一人です。覚えることが得意ですが、考えることが苦手なタイ
プです。知識の定着で最も大事なことは、授業で考え、討論し、自分で発見していく学習が大事です。教師は、
子どもを考える場面へ引き込んで、課題と対面させ、考えさせることが仕事です。

   
   【椅子の林の中で給食を食べるBさん】

   1230分になれば、外へ出て良いことになっている。5年の時は、椅子を机の上に上げて出ていた。特別に遅い
子は、椅子に囲まれて食べていたのである。あまり文句もでなかったが、学級会に問題として提案した。話し合い
を持ち、12時半になっても食べている子どもは、班の椅子を全部上げることに決めた。9月に入って、以前のよう
な光景が見られた。早く食べた子は椅子を上げて外へ出た。遅い子が1人、椅子の足に囲まれて、平気で食べている。
どちらも問題だ。しばらく前に約束を決めたのに、1か月もたたないうちに、元に戻っている。自分たちの約束に対
する意識の低さも問題だ。
  

(5)分数のかけ山登山ルート図

   ルート図を授業の初めに提示する。まず、目的地を明確にし、全体像をつかむことが大事である。今自分はどこにい
   て、どこへ行こうとしているのかを知ることは、探検を成功させるのには不可欠である。

         かけ山登山ルート図 (トップページのリンクからホームページ『けるん』をご覧ください。)   
 
   授業開始の日、このルート図を渡し話し合った。質問がたくさん出た。嬉しいことである。質問が出ることは、興味を
  持ったからである。1つ1つに丁寧に答えた。手の内を見せることを嫌がる教師も多いが、それは、中身のない学習内
  容の場合である。特に、5年生の時の『単位当たりの量』で使った、『矢線タイル図』の点検を大事にした。
  『分母分子をひっくり返して、かける』という技術だけを教えて、終わりにすることが多いが、それでは、分数の乗除
  で学べるたくさんのことを放棄することである。

  【追い越し倍】通分の指導をしている時、考え付いた方法です。最小の努力で公倍数を見つけられます。
  
           次のような方法は、どうでしょうか。
           追い越されたら抜き返す、という方法です。( 3 5 )の公倍数を求める。
           
           3 → 6 → 9 → 12  →    15 
               5    →   10     →   15 
          
          この方法では、最小の倍分で公倍数を求めることが出来る。
  



(6)道具の点検 ( 授業書NO.2 授業書NO.3 )

   道具1・・・ 1当たり量 × いくつ分  =  全体量
    道具2・・・ 倍分
   
道具3・・・ 約分   
    道具4・・・ 通分           

   
    学習の質が、記憶を左右する。どれだけ自分の力を使ったか、どれだけ自分で考え納得できたか。その時はできるが、
  しばらくするとできない。それは、教えられたことを覚えただけで、自分の力で答えに到達していないのではないか。
  記憶は、やがて薄れ消滅する。内容を理解し、なるほどと納得する授業が、次の学習に役立つのである。それでも、
      覚えたことは忘れる。ならば、必要な時に思い出そう。質の良い学習をしていれば、思い出すのも楽なはずである。
      何回となく忘れ、思い出すことで、自分の能力となる。忘れたことを叱ってはいけない。忘れたら、思い出せば良い

(7)矢線タイル図(第5の道具)  ( 授業書NO.4 )


   5年生の小数の乗除でも使いました。子ども達のイメージを手助けする図です。『シェーマ』とも言います。具体から
  抽象へと人間の思考が発展するとき、その媒介として、図や写真や言葉が有効に働くときがあります。その時使われた
  半具体、半抽象の媒介を私は、『シェーマ』とよんでいます。文学の授業でも理科の授業でも図を良く使います。1つ
  のシェーマです。シェーマは、思考の方向、思考の時間を規定します。手書きの図よりは写真が、より想像の範囲を狭
  くします。じゅうぶん気を付けて提示しなければなりません。現在、『矢線タイル図』は、とても有効なものと考えて
  います。

                    
           
(8)立式村へ   ( 授業書NO.5  授業書NO.6 授業書NO.7  )

 
 整数・小数・分数の四則を統一して考えることが、子どもの思考をしっかりすっきり発展させる。九九の
  指導から分数の乗除まで一貫している考え方は、下記の通りである。

              1当たり量 × いくつ分 = 全体量

  整数、小数、分数の乗除を下記の通りに整理して考えました。

             整  数 (  外延量的内包量×外延量  )
     *分離量、連続量を分離量化したものを内包量的に扱い、乗法の場面を作り出し、典型を教える。
     *いくつかに分けた1つ分として考える。等分除(1当たりを求める)包含除(いくつ分を求める)
        においても、 ÷整数の場合は、分ける という考え方である。

      小  数   (内 包 量×外延量 )
     *1m60gのはりがね2.3mでは、何gになりますか。この時、60g/mは、線密度 となり、
        本来の内包量が 出てくる。
     *計算の過程においては、整数の乗除と小数点の移動を組み合わせる。
     *いくつに分けるという考え方は通用しない。『÷小数』は、等分除的、包含除的に扱う。

       分  数 ( 内 包 量×外延量 )
  *小数と同様に内包量を扱う。計算過程においては、いくつかに分けていくつかを集めるという考え方
       である。整数等分と整数倍の合成と考えられる。
    *等分除的に、また、包含除的に扱うこともできない。1当たり量を求める計算、いくつ分を求める計算、
       全体を求める 計算など乗法の3用法として考えなければならない。
       
                 
                                   

(9)矢線タイル図から全体の量(答え)を求める
   @問題  
          1uぬるのに3と1/4ℓ(分数表示不可のため)のペンキが入ります。2と1/3uぬるには、
      何ℓのペンキが入りますか。  
       Aだいたいの予想
      図は描かないで、いきなり予想させてみました。だいたいの子どもは、6ℓくらい、7ℓくらいと
      予想しました。自分の意見としては発表しにくそうでしたので、2択で聞きました。

           (A)6ℓ以上      (B)6ℓ以下

   全員にどちらかを選ばせます。自分の意志を出させ授業の参加させること、そして、途中で意見
       をかえる。いつも自分の考えを整理し新しい考えを求めるように心がけています。とにかく、ど
     ちらかを選ばせます。子ども達は、まちがいたくないので、まよう時は選びません。横からこと
       の成り行きを見ながら活動に入ってこないのです。むりやり、どちらかを選択させます。Bを選
     んだ子が、次のように言いました。『3と1/4リットルの3ℓと2と1/3平方メートルの2u
       を取りだし、3ℓ以上2u以上あるから、6ℓ以上だ。』、この発言で全員、6ℓ以上とわかりまし
       た。そこで、問題を次のように発展させます。

          (C)6ℓ以上7ℓ未満    (D)7ℓ以上

   この問いに子ども達は、こまってしまいます。ある子ども達は、6.5ℓ以上はあると言いました。
     わけは、1/4ℓが2u分で1/2ℓ、つまり、0.5ℓはあるからという事でした。しかし、まだ
     残っている。これが、よくわからない。問いの質を高めて、思考の方向性を明確にしていくことが、
       教師の仕事です。(授業書NO.6 NO.7 NO.8 参照)

  B図を描いて調べる
     1ℓを1平方センチメートルと約束して図を描かせます。カンヅメタイルを描き、全体の量(答え)
     の部分を特定する。次に引ける線を引き、ビンヅメタイルにする。すると、子ども達に変化が起こ
     ります。『7ℓこえてるぞ。』、『いや、7.5ℓはこえてるよ。』、『なんでー。』などなど、様
       々な反応が起こり、『あと1つ、Dタイルの大きさがわかれば、答えが出る。』、はんぱのはんぱ
     タイル、Dタイルがカギを握ることがわかる。はんぱのはんぱ、最も小さいタイルが最も重要なん
         だとわかります。

  CDタイルの正体は (S/T君の作文から)


  
       『Dタイルの正体』  S・T

   先生が問題を出した。考えてもわからなんだ。そして、先生がどれくらいになるか予想してこいと言
   った。ぼくは、6と1/2ℓくらいと思った。そのあと、プリントへカンヅメタイルをかいてみた。
   そしたら、1ℓのタイルが6つあった。1/3ℓのタイルが3つあった。1/3ℓのタイル3つで1ℓにな
   る。6リットルと1ℓをたして、7ℓになった。完全に7ℓをこえることがわかった。また見たら、1/4ℓ
   タイルが2つあった。1/4ℓタイルが2つで2/4ℓ。約分して1/2ℓになった。7ℓをたして、
   7と1/2ℓになった。まだ、こまかいタイルがある。
学校で予想した。(ア)6ℓぐらい、
  (イ)6.5ℓぐらい(ウ)7ℓぐらい、これだけあった。ぼくは、7ℓぐらいと言った。そしたら、先生は、
   7ℓ以上を増やした。ぼくは、7ℓ以上と言って考えを変えた。今度は、2つにしぼられた。(A)7ℓ以下、
  (B)7ℓ以上。ぼくは、(B)に手をあげた。(A)にあげた人はおらなんだ。こまかいタイルだけわから
   なんだ。わかったような、わからんような、はっきりとせなんだ。先生がプリントをわたした。1ℓのタイル
   にA、1/4ℓのタイルにB、1/3ℓにC、正体のわからんタイルにD、とかいてあった。プリントの右下に
   図がかいてあった。それがヒントになって、わかった。1/12ℓだと思った。なぜかというと、たてに3本、
   横に4本線を引いたら、12個のこまかいタイルができる。そのこまかいタイルは、Dタイルと同じ大きさや
   った。1/12ℓだと思った。わけは、1ℓを12個にわけたうちの1つ分とDタイルは、同じ大きさやったか
   らだ。ついにわかった、1/12ℓが。まあ、答えはわかった。7と1/2ℓと1/12ℓをたして、
   7と7/12ℓになった。そのあと、先生が問題を出した。問題をノートへ書きながら、タイルの良い名前も
   考えといてといった。たかし君が、ブロックタイルといった。ぼくは、これはええないと思った。なぜかとい
   うと、ブロックはすきとおっていないから、向こうが見えないからと思った。かつのり君が、マドタイルと言
   った。かつのり君のマドタイルに賛成やった。先生の問題もすぐできた。

   『はんぱのはんぱタイルの正体は?』(S/Oさん)
       ・・・・・・・・・・略・・・・・・・・・・・・・
   OHPで写して見た。カンヅメタイルだけでは、全部わからん。ビンヅメタイルにした。私は、3種類まで
   数えられる。7と2/4ℓとすれば良い。でも、はんぱのもう1つのタイルがある。7と2/4ℓと1つとは
   かけないし、そんな分数はないと思う。考えていたら、5年の初めの頃習った『はんぱで折り返し計ってい
   く』というのを思い出した。それで考えていたら、横に4つ区切って、たてに3つに区切ると、ちょうど、
   はんぱのカギタイルと同じ大きさだった。カギタイルを折り返していくと、7つできっちりだった。これで、
   答えは、7と7/12ℓということがわかった。


(10)計算規則を見つける   ( 授業書NO.8 授業書NO.9 )    


  【計算規則を見つける】

   分数のかけ算は、ブロックタイル図にしてカギタイルの大きさと数がわかれば、答えを求めることができる。
 練習で『矢線タイル』を使えば、答えが求められるという確信を得たところで、次のような問題を出した。

   7と11/15ℓ/m2  ×  8と13/20ℓ/m =

   子ども達は、さまざまな反応を示した。『図らあー、かけんどー。』、『もたんどー。』、黙って計算を始め
 る子、一生懸命図を描こうとする子、しばらくして、66と268/300ℓになることを言いました。子ども
 達は、次のような反応をすると予想して。

   
     なぜ、先生は図を描かずに求めたか

        ↓

      何か良い方法をしっとるな

        ↓

      みんなで探ってみよう

   
計算の意味を次のように考えて指導しました。

    分数のかけ算は、全体の量を1つの分数に表すことだ。

    3/5 × 3/4 は、次の段階で、 3×3/5×4 となり 9/20 と求められます。つまり、
3×3/5×4は、1つの分数なのである。そして、分母、分子が、どう変わっていくのかを問題にした方が、
計算規則を理解しやすいと考えたのです。1種類の分数とは、半端の半端タイル(カギタイル)で表すことで
す。そのため、単位分数の数/1をいくつかに分けたかを表す数(単位分数の大きさ)
をしっかり確認するこ
とが大事です。

ブロックタイルを手がかりに、次のような流れで授業を進めました。

 @カギタイルの大きさを求める。


   Aカギタイルの数を求める。


   Bカギタイルの大きさと数によって、1つの分数に表す。
 大きさと数を別々にもとめて、総合する。分析総合
    の手法である


               

(11)かけてへるオーバーハング  ( 授業書NO.10 )
 
   大きな発想の転換です。これまでかけたら増えるとばかり思っていたのに、かけ算で求めた答えが減るのです。
   でも、この子ども達は、『やっぱり減ったね。』と当然だという顔をしています。そうです、5年生の時、小
   数のかけ算で『かけてへるオーバーハング』を学んでいます。その時の衝撃は大きかったのですが、今回は予
   想通り、『やっぱり』という反応でした。そして、ますます、算数に自信を持ち好きのなったようです。予想
   が出来て、その予想通りに結果が出る、こんな楽しいことはありませんね。

                          


(12)頂上への道  ( 授業書NO.11 )

   分数をかけることは、どういうことか。分数を表示する記号は、整数です。整数の操作で分数のかけ算やわり算
   を行っています。

           分母の数で分けて、分子の数だけ集める
               
           A × B/C = A ÷ C × B


(13)わり山の授業書  (授業書NO.12  授業書NO.13  授業書NO.14

    等分除、包含除では意味が通りません。『1当たり量』を求める、『いくつ分』求めると考えないと、立式が
    できません。矢線タイル図を駆使して説明をしましたが、なかなか手ごわい問題でした。ぜひ、授業書の図を
    見ていただき、解読してください。
    授業書は、このページにはリンクできませんでした。トップページのリンクから『けるん』にアップしました。
              

(14)おわりに

   はてさて、今の子ども達にこの授業書は使えるのか。たいへん不安です。はっきりしていることは、この授業書に
   よって子ども達はとても楽しい算数の時間を過ごしたということです。そして、『算数って、おもしろい。』、
   『算数好きになった。』と多くの子ども達が、言ってくれたことです。算数は、本当に楽しい教科です。

           
                  『教師は授業を楽しみたい。教師が楽しくない時、子どもが楽しいはずがない。』